診療科長 ご挨拶

呼吸器外科 診療科長挨拶 矢島俊樹

当講座の呼吸器外科では、肺癌を中心に転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、気胸、膿胸、胸壁腫瘍など胸部の悪性疾患および救急疾患の診療にあたっています。肺癌は本邦におけるがん死の第1位でさらに増加傾向であり、その診療の重要性は益々高くなっています。大学病院の使命として、早期がんに対しては高度な技術を用いた低侵襲手術を、進行がんに対しては根治を目指した拡大手術を共に発展できるよう努めていきます。

近年、画像技術の進歩に伴い小型肺がんに対する手術症例が増えています。これまで標準術式は「肺葉切除」のみでしたが、その患者さんは一般的にご高齢で、さらに喫煙により低肺機能の方も多く、身体に負担の少ない手術が望まれます。2021年の臨床試験(JCOG0802/WJOG4607L)の結果、2㎝以下の小型肺がんでは「肺葉切除」と比較し「肺区域切除」の方が予後良好であり、呼吸機能温存可能な「肺区域切除」が適応となりました。しかしながら、「肺区域切除」は「肺葉切除」と比較し複雑な操作が必要で、技術的難易度が高いことが課題となっています。特に胸腔鏡下では難しく、多くの施設では操作が比較的単純な一部の区域に限定し行っています。我々は「心と身体に優しい外科医療を実践する」ことを目標に、小さな傷で痛みの少ない胸腔鏡下のアプローチで、根治性を担保しつつ可能な限り呼吸機能を温存する肺区域切除の開発に取り組み、全国的にも類をみない「全ての区域に対する完全胸腔鏡下肺区域切除」を標準化できる方法として確立し実践しております。これにより、病変の部位によらず呼吸機能温存可能な低侵襲手術ができ、さらにこれまで手術困難であった多発肺癌や低肺機能の患者さんに対してもQOLを保ちながら根治手術を行うことができます。また、転移性肺腫瘍でも複数病変切除が必要なことが多々あり、部分切除困難な肺深部病変に対して複数区域または亜区域切除を行っています。今後、香川大学からこの究極の低侵襲手術を世界に向け発信していきたいと考えております。

進行がんに対する拡大手術については、根治の可能性をあきらめることなくその治療に積極的に取り組んでいきます。大学病院の特徴を生かし局所進行症例の大血管浸潤例では心臓血管外科、広範囲の胸壁欠損を伴う手術では形成外科、食道浸潤例や大網充填が必要な手術では消化器外科、切除可能境界域の症例においては術前化学療法を内科と連携し行っていきます。ただし、それらの手術はリスクが高いことも多く、その適応は慎重に判断する必要があり、呼吸器外科だけでなく呼吸器内科、放射線治療科、放射線診断科が参加する呼吸器Cancer Boardで十分討議し最適な治療法を選択するよう努めていきます。

研究では臨床課題を克服するための基礎研究および臨床研究を共に積極的に行っています。これまで伝統的に行われてきた肺区域切除におけるICGを用いた赤外光胸腔鏡の開発に関する研究に加え、私がライフワークとして行ってきた腫瘍免疫の基礎研究をすすめていきます。これらの研究成果を臨床応用し香川大学発新規治療法の開発につなげていきます。

大学病院である私達の使命は、患者さん一人一人の心に寄り添いながら、その人のためとなる最善の治療法を最新の技術で提供していくことと考えております。その期待に応えるべく常に最新の知見を学び、研究を推進し、さらに新規医療技術の導入に努めていきます。これらの取り組みを行うことにより、香川県および周辺県の呼吸器外科診療の治療成績向上につなげ皆様の幸福に少しでも貢献できればこの上ない喜びであります。