乳腺内分泌外科では主に乳腺疾患、特に乳癌の診断・治療を行っています。乳癌は日本でも増加の一途をたどっており、当科の乳癌手術症例数も増えてきました。早期診断・早期治療は最優先すべき目標です。「再発させない乳癌治療」を目指し、以下の診療内容で毎日積極的に取り組んでいます。
【検診・診断】
マンモグラフィ・超音波検査では、日本乳癌検診精度管理中央機構の認定を受けた検診マンモグラフィ読影医師、乳がん検診超音波検査実施・判定医師が診断にあたります。腫瘤に対しては針生検、細胞診で病理学的検査を行います。微細石灰化のみで非浸潤癌が疑われる病変は、ステレオ撮影で病変位置を確認し組織を吸引採取するマンモトーム生検を行います。乳癌と診断がつけば乳房MRI検査で乳管内進展等の拡がり診断、CT検査等で領域リンパ節転移、遠隔転移の有無について診断します。
出典 国立がん研究センター癌情報サービス
【治療】
ステージとサブタイプ、患者さんの個々の背景に応じて、手術療法、薬物療法、放射線療法を適切に組み合わせて初期治療計画を立てます。
〈乳房手術〉
腫瘍径と拡がりに応じて温存もしくは全摘術を行います。当院は日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会が認定する乳房再建用エキスパンダー・インプラント実施施設でもあり、乳房再建を希望する方は形成外科と連携して対応しています。腫瘍径が大きく全摘適応の場合でも、術前薬物療法により温存可能となる場合もあります。腋窩手術に関しては、臨床的に腋窩リンパ節転移陰性であればセンチネルリンパ節生検(色素法・蛍光法併用)を行い、転移状況で腋窩郭清を省略することで術後の知覚麻痺や上肢リンパ浮腫等の合併症が少なくなるように努めています。
〈薬物療法〉
従来の化学療法、内分泌療法に加えて分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬と保険適応となる薬剤が続々と増えてきました。術後の補助療法、転移・再発治療のいずれの場合も薬剤の組み合わせや順番、投与法に専門的な知識が必要です。最新のエビデンスに鑑みながら、患者さんの病状と生活スタイルや価値観に合わせた個別化医療を実践しています。
【遺伝性乳癌】
遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)は,BRCA1あるいはBRCA2遺伝子の病的バリアントに起因する遺伝性腫瘍症候群の一つです。生涯の乳癌・卵巣癌の発症率が高く早期発見・早期治療、発症前の対応が非常に重要で、遺伝カウンセリングや遺伝学的検査、BRCA1/2遺伝子バリアント保持者へのサーベイランス、リスク低減手術など様々な局面があります。
2020年4月より、BRCA1/2遺伝子検査や、乳癌患者のうちHBOCと診断された患者さんのリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO),および対側の乳房切除術(CRRM)などが保険適応となりました。当院はHBOCに対する保険診療を実施する施設基準を満たしており、さらに日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)の連携施設にも認定されています。周産期科女性診療科、2021年6月に新設された臨床遺伝ゲノム診療科と緊密に連携した対応が可能です。
【チーム医療】
乳癌診療では診断・初期治療から再発治療、緩和医療まで関わるため、患者さんの身体的ケアのみならず、精神的・社会的ケアなど多岐にわたるサポートが必要です。質の高い医療を提供するために、放射線診断科、放射線治療科、麻酔・ペインクリニック科、放射線部、病理部、外来化学療法室、リハビリテーション部など各科の医師・看護師、薬剤師、臨床心理士、放射線技師、理学療法士、作業療法士、認定遺伝カウンセラー、医療ソーシャルワーカーなど多職種と協力しながら診療にあたっています。
多職種カンファレンス 写真