診療内容

肺癌について

肺から発生した癌を肺癌と呼びます。肺癌は日本人のがんによる死因の第1位(男女別では男性第1位、女性第2位)で、種類や広がりで治療法が変わります。
肺癌はおおきく小細胞癌と非小細胞肺癌の2種類に分類できます。約80%を非小細胞肺癌が占めますが、このうち肺癌の広がりが限局されている場合に手術が治療の選択肢となります。小細胞癌は抗癌剤や放射線治療にたいする感受性が高いため、おもに呼吸器内科で治療をおこないます。

肺癌の病期と検査

肺癌はまわりの組織は破壊して大きくなる“浸潤”や、リンパの流れや血液の流れにのって広がる“転移”と呼ばれる形で進行します。この肺癌の広がりを病期とよび、この病期によって推奨される治療が変わります。
肺癌の広がりを調べるためにはCT検査、頭部MRI検査、FDG―PET検査などをおこないます。また肺癌の診断を確定させるためには、気管支鏡検査(肺のカメラ検査)やCTガイド下生検(CTで位置を確認しながら針を刺す検査)をおこない、腫瘍の細胞や組織を採取して顕微鏡で癌があるかを調べます。腫瘍が小さい場合には診断をつけることが難しいため、診断と治療をかねての手術も多くおこなわれます。

肺癌の病期(ステージ)別 治療法

肺癌の病期(ステージ)別 治療法

肺癌の手術

肺癌の治療を目的とした手術では、肺癌の広がりによって切除する範囲が変わります。肺癌における基本的な手術は、肺葉という単位で切除をおこなう“肺葉切除術”になります。非常に早期の肺癌を除き、癌の部分のみを切除する“肺部分切除術”では局所再発の可能性が高くなってしまいます。しかし、サイズの小さな肺癌にたいしては、肺切除範囲を縮小した手術として“肺区域切除術”が行われます。この手術は肺機能を温存しつつ、肺癌にたいする治療効果を得られる方法として、当院でも積極的に行なっている手術です。肺癌の広がりが大きい場合には、左右どちらかの肺を全て切除する“肺全摘術”や、機能を温存するための“気管支や血管の形成術”、周囲臓器をあわせて切除する“拡大切除術”などをおこないます。

肺癌 切除方法

肺癌の標準的な手術は、確立した安全性の高い手術です。当院では年間で150例ほどの肺癌手術をおこなっており、これは香川・四国内でも有数の症例数です。単純な肺葉切除術では手術時間2-3時間程度で終わり、出血量はごく少量です。当院では傷の小さな胸腔鏡手術を標準的な手術方法として採用しており、傷は大きいところでも3-4cm程度、入院期間は平均的に5日から7日ほどです。年齢や合併症などによって合併症のリスクは変わってきますが、全国的に術後の手術関連死亡率は0.4%程度とされています。

肺癌手術における傷のイメージ

肺癌の手術後

肺癌は手術で治療が終わるわけではありません。確率はそれぞれの病期で異なりますが、再発や転移をする可能性があります。完治を目指して手術後の追加治療や、再発がないかの定期的な画像検査を計画していきます。最低で5年間は通院が必要になります。長い期間になりますので、不安や悩みなどがあれば遠慮せずにご相談ください。

当科の肺癌手術件数

当科における肺癌の手術件数です。2010年頃と比較して年々手術件数は増加しており、近年では年間150例程度の手術件数です。
四国では有数のハイボリュームセンターとなっております。

転移性肺腫瘍について

転移性肺腫瘍は肺癌とは異なる病気です。転移性肺腫瘍はほかの臓器にできたがん細胞が、血液にのって肺に転移をしてできたものをいいます。肺の細胞から発生した肺癌とは治療の方針が違い、もとの臓器がどこであるか、癌どのような状態であるかによって手術をおこなうかが決まります。原則として、もとの臓器の癌が再発していないこと(局所再発)、肺以外の臓器に転移がないこと、肺転移の数が数個で完全切除ができることが、手術の条件となります。

転移性肺腫瘍の手術

転移性肺腫瘍の場合、腫瘍とその周囲の肺だけを比較的小さく切除します。肺の表面に近い場合は肺を楔状に切除するは“肺部分切除”をおこないますが、腫瘍が肺の付け根に近い場合や、大きな場合には“肺区域切除術”や“肺葉切除術”が必要になります。当科では複数病変でも、適応があれば複数肺区域切除、亜区域切除で病変の完全切除を行っています。

縦隔腫瘍について

縦隔とは左右の肺に囲まれた空間で、心臓・大血管・気管・食道など様々な臓器が存在する場所です。この縦隔内に発生した腫瘍をひとまとめに縦隔腫瘍と呼びます。縦隔腫瘍には様々な種類の腫瘍がふくまれていて、その性質も異なります。
縦隔腫瘍の中で最も多いものは、胸腺とよばれる縦隔の前方に位置する臓器から発生する腫瘍です。悪性のものとして胸腺腫や胸腺癌などがあり、良性のものとしては胸腺嚢胞があります。胸腺以外を原因としたものでは神経原性腫瘍や胚細胞腫瘍などがあります。

縦隔腫瘍の検査

縦隔腫瘍の画像検査にはCT検査、MRI検査、FDG−PET検査などがあり、どのような種類の腫瘍が疑われるかや、腫瘍の大きさや広がりについて調べることができます。腫瘍の確定診断をつけるためには組織や細胞を採取する必要があり、縦隔腫瘍の場合にはCTガイド下生検(CTで位置を確認しながら針を刺す検査)があります。しかし、画像検査で悪性腫瘍が疑われる場合や、腫瘍が増大してきている場合、生検をするのが難しい場所に腫瘍がある場合などでは診断と治療を兼ねて腫瘍を切除する手術が勧められます。

縦隔腫瘍の手術

当院では小さな傷からカメラと道具で手術をおこなう、胸腔鏡手術を標準的な手術方法としています。傷は大きいところで3cmほどです。しかし腫瘍が大きい場合や、周囲の臓器に浸潤(組織を巻き込んでおおきくなること)している場合には、胸骨という胸の中心にある骨を切っておこなう、胸骨正中切開という方法で手術をおこないます。

膿胸について

膿胸とは、胸腔という肺の外側の空間に細菌の感染をおこした状態をいいます。高齢のかたや糖尿病のかた、ステロイドなどの免疫抑制剤を使用しているかたなど、感染をおこしやすいかたで起こることが多い病気です。発熱や胸の痛みが症状としてよく認められ、胸水や膿が胸腔にたまることで息苦しさをおこすこともあります。胸水の検査をおこなうことで診断がつきます。

膿胸の治療

膿胸の治療では、抗生剤と、胸腔にたまった胸水(膿)を管を使用して体外に出すドレナージという治療が必要になります。ドレナージのみでは胸水(膿)が除去しきれず、感染がよくならない場合には、手術で胸腔内をきれいな状態にする、“膿胸腔掻爬術”を行うことがあります。手術は基本的には傷の小さな内視鏡手術でおこないます。
感染をおこしてから3ヶ月以上たった膿胸は慢性膿胸と呼ばれ、前述の治療のみでは治療が行いないことがあります。その場合は、感染をおこした空間を小さくする“胸郭形成術”や“充填術”、空間にガーゼをつめるための“開窓術”といった、おおきな手術が必要になることがあります。

気胸について

気胸とは、なんらかの原因によって肺から空気が漏れてしまい、肺がしぼんでしまう病気です。明らかな原因がなくおこる気胸を“自然気胸”と呼び、20歳前後の男性によくおこります。特に長身で痩せ型の男性におこりやすいのが特徴です。自然気胸の他にも、もともとの肺の病気を原因としておこる“続発性気胸”、肋骨の骨折などを原因としておこる“外傷性気胸”などがあります。また女性のかたでも、月経周期に一致しておこる“月経随伴性気胸”や、稀な病気の肺脈管筋腫症(LAM)に伴うものがあります。

気胸の症状と検査

胸の痛み、息苦しさ、咳などの症状がおこります。症状がまったくない人もいますが、肺のしぼみが強い場合には“緊張性気胸”という重症な状態になることもあるため、程度にあわせて治療をおこなう必要があります。検査としてはレントゲン検査やCT検査があり、肺のしぼみ具合や原因を調べます。

気胸の治療

肺のしぼみの程度によって、治療の方法がかわります。肺のしぼみが少ない場合には、安静にして様子をみることがあります。肺のしぼみが強い場合には、細い針で空気を抜く“脱気”という治療や、細い管で持続的に空気を抜く“胸腔ドレナージ”という治療をおこないます。胸腔ドレナージを行う場合には入院が必要になります。 胸腔ドレナージで空気漏れが止まって気胸が治っても、再発する可能性が50%程度あるといわれています。再発をしてしまった場合、ドレナージをおこなっても空気漏れが止まらない場合、再発をする可能性を下げたい場合などでは手術が必要になります。

気胸の手術

気胸の手術は全身麻酔でおこないます。気胸の原因となる穴をふさぐ手術で、多くの場合は肺嚢胞という肺が袋状になった部分を切り取る手術になります。ほとんどの場合は、小さな傷でカメラを使用する胸腔鏡手術でおこないますが、空気漏れの場所がわかりにくい場合などには開胸手術になることがあります。若い方であれば手術から2-3日で退院することがほとんどです。